5.ナシ(梨)

中国では、モモとならんでよく好まれる果物で、古くから〈百果の宗〉と呼ばれ、随所で栽培されています。
古い話では、肝の武帝が庭園にナシを植えた逸話が残っていますが、これは単にナシを好んでいたからではなく、気候風土と病気に関連した条件下にあって、必要にせまられたものでもありました。というのは、中国の北方は乾燥がひどく、かつ砂塵でのどを痛めるものが多かったためで、古人はナシののどや肺を潤し、炎症を和らげる作用をよく知っていて利用していたのです。
漢方では通常、熱があって咳や痰が切れないときや、または風邪や扁桃腺などで、口が渇きのどが痛むとき、または暑気あたりや糖尿病の暑気などでやたらにのどが渇くときに用います。また、便秘にもよいものです。
この点から、気管支などに有効な果物ということはお分かりと思います。ただし大切なことは、どんな気管支炎にも効くわけでなく、炎症のために微熱があり、身体が熱っぽくてのどが渇き、痰は少ないか濃くて切れにくく、空咳が出て苦しい場合に有効で、水っぽい泡状の痰が出て、ゼイゼイするような場合は不適当なのです。