旬の食べもの: 57.山の芋(ヤマノイモ)

麦とろを噛まずに飲み込んでも、胸やけや消化不良で悩まされることがないのは、誰でも経験しているとおりです。これはヤマノイモに消化酵素のジアスターゼが、他の食品にくらべて極端に多いためで、ほかにも多くの酵素が含まれ、米飯その他のデンプン質食品もすみやかに消化してしまいます。
 ヤマノイモは漢方では山薬(山のクスリ)と書いてサンヤクといい、強精強壮薬として大変優れた薬効を持っています。まさに医食同源を代表する食品なのです。
 近年、漢方薬の普及に伴って、中高年以降の強壮薬として有名な薬となった八味丸(はちみがん)の主成分のひとつがこの山薬です。
 漢方では消化器系を補い、肺や腎の働きを活発にするとして、滋養強壮・消化促進効果があり、ねあせ・衰弱時の発汗・下痢・糖尿病・頻尿・おりもの・腰痛・咳嗽(セキ)などに効くことが分かっています。
 消化酵素の働きを期待する場合は生で、逆に冷えて下痢したり、夜間尿の多い人は、熱を通して食べる方がより効果的といえるでしょう。いま話題の薬膳には、必ずこの山薬の乾燥したものを使ったスープ料理が登場します。

旬の食べもの: 56.葡萄(ブドウ)

ブドウの原産地は西アジアで、中国で最初にブドウの効能が記載された書籍は1~2世紀の『神農本草経(シンノウホンゾウキョウ)』です。
 わが国には奈良時代にあたる8世紀に渡来した果物です。特有の甘味の主体はブドウ糖で、これに果糖・庶糖・転化糖が混じり合っています。酸味は、酒石酸・クエン酸・リンゴ酸などの有機酸が作りだし、軽い渋味はタンニン酸がもたらします。
 中国漢方では、のどの渇きや痛みを治し、利尿作用があり、食欲を増進し、顔色を良くし、血液を増加させる滋養強壮の果物とされています。
 またブドウから作られたブドウ酒は食欲増進・増血・血行促進の薬用にヨーロッパでも使われ、料理に使われる酢は大半がワインビネガーです。
 目に良いと言われているブドウを食べ過ぎると体に熱がこもり、目に悪いと古い書籍に記載されています。気をつけましょう。

旬の食べもの: 55.ビワ

ビワは夏の果物で、口当たりよくさわやかな香りで愛されています。その花も葉も木の皮もそれぞれの効能があります。
 ビワのオレンジ色の色素にはβ-カロチンが含まれ、体内で徐々にビタミンAに変わり、目の網膜の機能を保ち、粘膜の乾燥を防ぎ、疲労や視力の回復に役立ちます。同時に体の酸化を防ぐことによって、動脈硬化や老化を防止する効能もあります。
 また、ビワの渋みにはポリフェノール類のタンニンという成分が含まれ、抗酸化作用や抗老化作用があり、慢性病の回復にも役立ちます。
 ビワ葉は、有名な薬草で、咳や嘔吐、暑気あたり、疲労回復によう利用されます。塗り薬として外用したときは皮膚の炎症の改善や痒み止めに効果があります。しかし、葉の裏面に細かい毛があり、そのまま煎じて毛が浮き出た汁を飲むと、のどに刺激を与えて、かえって咳がひどくなります。咳の場合には、乾燥した葉の裏にある毛を除いてから使いましょう。ミツで炒めてから他の漢方薬と一緒に使います。嘔吐の場合にはハチミツを混ぜずに毛を除いたら布で別包にして使います。江戸時代の川柳に「枇杷と桃葉ばかりながら(憚りながら)暑気払い」という句が残っていますが、ビワ(枇杷)の葉は暑気を払う効能があることを示しており、庶民の間でも愛用されていたのです。

旬の食べもの: 54.メロン

原産地はアフリカで、日本では明治中頃にヨーロッパから温室メロンが導入され、大正にかけて普及しました。温室メロンと露地メロンがあり、露地メロンにはカリウムとビタミンC、カロチンがより多いですが、差はそれほどありません。
 メロンは円形、長形さまざまあり、また、ネット系、ノーネット系などの種類に分けられますが、その効能は似ています。ほかにメロンの種や花、葉、ツル、ヘタともにそれぞれの効能があります。種は、甘味で「寒性」で、効能は口臭や腰膝の痛み、下腹部の痛み、便秘に。ヘタは苦く「寒性」で、効能は全身浮腫や咳痰、頭痛、てんかん、黄疸に。花は胸の痛みや咳に。葉は脱毛や打撲に用います。 
 メロンは「寒性」で気を降ろす効能があるため、熱っぽい高血圧の方にはよいのですが、冷え性のある方には合わないため、おいしさを少し味わう程度にして、冷えの回復のためには逆効果と心がけましょう。
 また、「妊婦」は冷えると胎児の発育に不利ですので、あまり冷やさないように、室温に戻したあと控えめに食べましょう。

旬の食べもの: 53.茗荷(ミョウガ)

ミョウガは日本原産で、しかも日本でしか食用とされない野菜のひとつです。中国では食用としませんが、江西や浙江などの山村に生えていて、葉やミョウガを煎じたり、汁などを薬用としています。
 物覚えの悪い般特という坊さんは自分の名前まで忘れてしまうので、かわいそうに思ったお釈迦様が、名前を書いた札を首にかけてやったところ、その札のことまで忘れてしまった。般特が死んで葬られた墓からおかしな草が生えたので、名前を荷った般特にちなみに茗荷という名前がつけられたという話があります。
 花序と若芽には精油や辛味成分を含むほか、ビタミン類やミネラルなどもあり、昔から薬味や漬物として用いられました。精油は補温性の浴料となるほか、しもやけなどに効果があります。
 ミョウガの生葉を粗く刻み、手拭い二つ折りの袋にたくさんつめて、浴槽に浮かべて入浴すれば、香りもよく、湯冷めしにくくてからだが温まりますから、神経痛やリュウマチ、肩こり、腰痛、冷え性などに効きます。浴槽の中で、袋をもんで精油を出すようにすればいっそう効果的です。

旬の食べもの: 52.桜桃(サクランボウ)

サクランボウは、東洋では桜桃(オウトウ)と呼ばれ、中国ではすでに唐の時代の薬物書に咳止めとして、その果実が記されています。しかし、わが国で栽培が始められたのは、明治に入ってからです。
 原産地は中央アジアで涼しい気温を好み、福島・山形・秋田・北海道などで栽培されています。美しいピンク色はケラシアニンという色素で、ビタミンA・B1・B2・Cや、ミネラル、ことにカリウムを多く含んでいます。甘味成分として転化糖や庶糖が、また酸味として、クエン酸・リンゴ酸・酒石酸が入っています。
 薬効としては、鎮咳作用をもつアミグダリンが含まれているため咳止めとして働き、1日10個くらいを食するとよいでしょう。また強壮剤として元気をつけ、顔色をよくする効果をもち、美人をつくるといわれています。またヨーロッパでは便秘時の通便の果物として用いられています。
 また、サクランボは他の露地の果物より一歩早く熟するのでその性質は「熱性」といわれています。熱っぽい高血圧の人などはおいしいといって食べ過ぎないようにした方がよいでしょう。

旬の食べもの: 51.蜆(シジミ)

古くから日本のいたるところでとれたしじみは、日本人の食卓には欠かせない貝の一つです。日本には、川の中流以上に住むマシジミと海に近い河口に住むヤマトシジミがいますが、食卓に上がるのはほとんどがヤマトシジミの方です。
タンパク質を主成分に、各種のビタミン・ミネラルを豊富に含んでいます。
 しじみのタンパク質は、含有量こそ少ないものの、質は最高。アミノ酸バランスを示すプロテインスコアはなんと100で、肉や魚に劣らない大変優秀なタンパク質です。
 貧血に効果のある鉄分は1食分(20g)当たり2mgあり、これは成人女性の必要摂取量の1/6に相当します。しかも、吸収しにくいといわれる鉄分も、アミノ酸のバランスがよいため、効率よく吸収することができます。
 赤血球を増やすビタミンB12も豊富で、貝には珍しくカルシウムも多くあります。
 昔から黄疸や二日酔を治すのにシジミの味噌汁がよいと言われていますが、これはシジミの中にメチオニンシスチンといった肝臓を強くするアミノ酸が多く含まれていることと、シジミのエキス分が胆汁の分泌を促進するからです。

旬の食べもの: 50.若布(ワカメ)

ワカメは、褐藻類渇コンブ科の植物で、ワカメの「め」は海藻のことで、早春から6月までに採集した若いものを食用にするので、ワカメの名があります。万葉集には玉藻(たまも)の名で数多く歌われています。
 漢方ではホンダワラを海藻の名で利尿や甲状腫などの腫れに用います。ワカメはヨード、カルシウム、カリウムといったミネラル分、ビタミン類を豊富に含み、コンブと同様に便秘の解消、骨歯の強化、髪つやの増進、利尿作用による浮腫の除去、血圧降下作用による高血圧の予防と改善、血栓ができるのを防ぐなどの数多くの働きをもちます。
 しかもコンブのように塩分の心配がなく、カルシウムの含有量はコンブより多く、お年寄や成長期の児童、妊産婦の方にはぜひ食べていただきたい食物です。
 しかも良質の繊維質をサツマイモと同じくらい含んでいるので、便秘の解消によく、若い方の美容にも最適です。毎朝、お味噌汁の中に入れていただいたらいかがでしょうか。

旬の食べもの: 49.鼈(スッポン)

「月とスッポン」という言葉があります。月もスッポンも丸いが、同じ丸でも随分と異なり、比較にならぬほど相違することを意味する言葉です。
 3月に入ったとはいえまだまだ寒い日があります。スッポンは冬眠をしますが、泥の中にスッポンがいると、冬にその部分だけが凍らないといわれるほど精の強い動物だといわれています。
 その肉は、体を温める作用を持ち、滋養強壮、強精剤に用いられますが、衰弱性の微熱、神経性の下痢、脚気によるむくみ、痔、白帯下(こしけ)の改善にもよく効きます。
 スッポンは甲羅、爪、膀胱、胆嚢を除いてはすべて食用に使われ、各部分で効用も異なります。精力がつくといわれるスッポンですが、漢方書には気力を増やす(益気)、血液中の余分な熱を取り去る(去血熱)、風邪などの急性疾患(傷寒中風)、肝臓、腎臓などの機能不全(補陰)、月経不順、不妊症などの婦人病(血か)、心身の衰弱(虚労)など、実に多くの効力が書き記されています。

旬の食べもの: 48.柚子(ユズ)

 ゆずようかん、ゆずもち、ゆずみそ、ゆべしなど、香り、実、皮ともに昔からさまざまに利用されています。特に利用範囲の広いのは、その香りです。
 香りの成分は皮に含まれる精油成分が主なもの。これには、温熱効果があり、冷え性、リューマチ、神経痛などによいわけです。また、果汁に含まれるのはビタミンC、B1、B2で、ヒビやアカギレなどの手荒れを整える薬効も備え、鉄分、カリウム、カルシウムなどのミネラルは、貧血などにも効用があるというわけです。
 冬至のゆず湯は過ぎてしまいましたが、鍋物に吸い物にと冬にゆずは欠かせません。ゆずの木の原産地は中国揚子江上流といわれていますが、やはり寒い地方のものです。
 ゆずは香りを使うもので、あまり果実は利用しないのですが、果実酒だとどちらも利用でき、またビタミンCもたっぷりです。
 ゆず6個は水洗いし、輪切りにして保存瓶に入れます。そこにはちみつ400g、ホワイトリカー1.8㍑を注ぎ、涼しい所に3ヶ月ほど放置したあと、ゆずをこして出来上りです。
 1日に盃1~2杯ずつ飲むと貧血、動脈硬化予防、疲労回復などにいいでしょう。
 ゆずの季節には安いものが出回りますから、多めに買って冷凍しておきいつでも使えるようにするとよいでしょう。